ヤスリ職人を訪ねて

棒ヤスリで試作品を削り続けても、なかなか思うように作業が進まない。「もしかしたら、使っている道具が違うのでは?」そんな小さな疑問が、東京のヤスリ職人との出会いへとつながっていきました。

職人が作った両利き用のヤスリ
小さなサーフボードの試作品づくりでは、棒ヤスリを使い、滑らかな曲面を手作業で削り出そうと毎日黙々と作業を続けていました。

しかし、どれだけ時間をかけても思うように作業は進みません。

「この道具は本当にこの作業に向いているのだろうか。」

そんな疑問が頭をよぎりました。

それと同時に、

「ヤスリにはどんな種類があるのだろう。」

「そもそも、正しい使い方とは何なのだろう。」

という新たな疑問が生まれました。

その答えを知るには、本当にヤスリを知っている人に教わるしかない。

そう考えた私は、ヤスリについて調べ始めました。

すると、東京には江戸時代から代々ヤスリを作り続けている職人がいることを知りました。私はすぐに電話をかけ、訪問の約束を取り付けました。

その日のうちに訪ねた店は、小さく質素な造りでした。

工房では、金槌とノミを使い、一つひとつ手作業でヤスリが作られていました。

迎えてくださった旦那さんは、まさに昔ながらの職人気質の方でした。

私は削りかけのコアと使っていた棒ヤスリを持参し、

「どうすればもっと上手に削れるでしょうか」

と尋ねました。

旦那さんは笑顔で、

「それじゃあ、ちょっと削ってみな。」

と言いました。

削り跡を見ると、

「ヤスリが合ってないなぁ。じゃあ、これはどうだ。」

そう言って店に並ぶさまざまなヤスリを一本ずつ試させてくれました。

「どうだい?それでも駄目なら、こっちはどうだ?」

そうして何本も試したあと、

「一番削りやすかったのはどれだった?」

と尋ねられました。

私は正直に、

「この中ではこれが一番良かったです。でも、まだ納得できるほど削れてはいません。」

と答えました。

すると旦那さんは静かにこう教えてくれました。

「棒ヤスリは、本来鉄を削るための道具なんだよ。あんたが削ろうとしているのはもっと柔らかい素材だから、この道具には向いていないんだ。」

そして続けて、

「ここには置いてないけど、サーフォームのこヤスリなら、もっと削りやすいんじゃないかな。」

と、惜しみなく知恵を授けてくださいました。

私は、自分の目的を達成することばかり考え、道具そのものについて深く考えたことがありませんでした。

しかし、この職人さんは、自分の商品を売ることよりも、目の前の私の疑問に真剣に向き合ってくださいました。

その誠実な姿勢に、私は胸を打たれたのです。

さらに旦那さんは、

「ヤスリは引いて使うんじゃない。押すように使うんだよ。

「日本のカンナは引いて使うけど、世界のカンナは押して使う。世界の道具は、ほとんど押して使うものなんだ。」

「ここにあるヤスリも、ほとんど右利き用だよ。右利きの人が多いからね。」

と、道具についてさまざまなことを教えてくださいました。

最後に私が、

「私は右手も左手も同じように使います。」

と話すと、旦那さんは少し笑いながら、

「そんな人がいるかもしれないと思っていたんだ。」

と言って、特別に作っていた両利き用のヤスリを取り出してくださいました。

「FRP加工をするときに棒ヤスリが必要になる。そのときに使いな。」

そう言って、そのヤスリを私に授けてくださいました。

さらに、

「もう、この先は跡を継ぐ職人がいないからね。」

と静かにつぶやきながら、ほかにも数本のヤスリを譲ってくださいました。

私も必要なヤスリを購入し、心からお礼を伝えて工房を後にしました。

人の温かさに触れると、不思議と前へ進む力が湧いてきます。

私は新たに**「サーフォーム」「のこヤスリ」**という道具の存在を知り、ものづくりへの希望を胸に、再び試作品づくりへ向かうことができたのでした。


前へ
正しい道具を、正しい方法で使う
次へ
「これだ」と思える道具

返信はありません

Email again: